2011年3月8日火曜日

マルセ太郎読本 ~芸と魂・舞台裏・人間を語る~  読了


読み終わって思ったのは、この本は僕にとって実に残念な本である。
もちろんその原因は僕にある。
実はマルセ太郎さんの舞台を観たことがない。生で観たことがないのだ。

マルセ太郎さんのビデオは僕が知っている限り、3本ある。
どれも「スクリーンのない映画館」シリーズで「泥の河」「生きる」「息子」の3作でそのうち2作は見たことがある。

マルセ太郎さんはライブを重視し、ビデオは「舞台を観たことがある人は買っていい」みたいに、あまりメディアというもの肯定はなかったようである。

僕が最近観る舞台には、実にマルセ太郎さんの影響を
少なからず受けている方たちが多い。
田中泯さん、オオタスセリさん、松元ヒロさん、そして
この本の発起人でもある、神戸芝居カーニバル実行委員会の中島淳さんらから
マルセ太郎さんの話を聞く機会がある。

それはたいがい芸についてというより、マルセ太郎さんの姿勢、
芸に対する姿勢、人に対する姿勢、向き合い方みたいなものを
思い出しながらポツリポツリと、時に笑いを交えながら語られ
幸運にも僕は聞くことができた。

この本にはそういった語り草がたくさんある。
立川談志師匠曰く「タモリやたけしを見るのは文明ですが、マルセ太郎を観るのを文化と言います。」
天才が天才を評するとこうなるのか。

「記憶は弱者にあり」
この言葉はマルセ太郎さんが色紙にサインする時いつも書かれた言葉だと聞かされている。
僕は数年前に田中泯さんに「君は一回死んだほうがイイ」と言われたことがある。
放浪の旅に出る前にそのことを田中泯さん本人に言ったら全然覚えていなかった。
言った側は覚えていないが、弱者(受身)である僕はしっかり覚えているのである。

今回この本を読んでマルセ太郎さんの言葉で引っかかって、すっと入ってきた言葉がこれ。
「人生が充実していると、死を受け入れられるようになる。」
僕は8ヶ月旅をしている時、本当に思っていた。「今死んでも幸せだと。」
「幸せの絶頂にあるときに死んだらラッキーだ」と。

この本を読んで僕が感じたマルセ太郎さんは、多くのファンの方からのお叱りを恐れずに言うと、
いつでも恐れずにエッジに立つ気概がある人。
しがみつく人が多いが、後ろを見ずに常に芸の先端に立つことができる人なんだなぁと。
ここら辺は、僕は文筆家ではないので「筆舌にしがたい」という一言で片付けさせてもらう。
その生き様みたいなものは、芸人や表現者はもとより、僕みたいな平凡な人間でも
頭をガツンとやられるはずだ。
ぜひ、この本を読んでガツンとやられて欲しいと思う。
そしてこの本は、自分の私生活と向かい合うことができるし、自分の表現と向き合うことができる。
自分の仕事と向き合うこともできれば、自分自身と向き合うこともできる本だ。


一度も観たことのない芸、一度も会ったことのない人の話を読み終わった。
観たことある人、会ったことのある人はきっと懐かしいとか感じているに違いない。
かといって僕は故マルセ太郎さんの幽霊に会いたいわけではない。
間違っても夢枕にあの顔が出てきてほしくない。あの顔である。

僕にとっては懐かしいと共感できないのが、この本の実に残念なところである。


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偉大な芸人とその類いない芸を
文章と映像で知る!

永六輔・古館伊知郎・小栗康平・宮本輝・田中泯・木津川計などが
マルセ太郎が編み出した「スクリーンのない映画館」など、
彼の芸・魂・人間を縦横無尽に語る!
貴重な立体講談二本を初めて収録。
没後10年記念出版。

■芸人・マルセ太郎の芸と魂
マルセ太郎の語り芸 - 永六輔
マルセ太郎の魂 - 対談・田中泯×中島淳
コラム●「動く壁」が見えた人 - 小栗康平
コラム●「中毒と芸人」 - 池田正彦

■舞台裏のマルセ太郎
マルセ太郎の「心象風景」 - 対談・宮本輝×マルセ太郎
天才マルセ - IKUO三橋
マルセさんの背中を追い続けて - 松元ヒロ
マルセカンパニーの「マルセ太郎」 - 永井寛孝
客席から観たマルセさんの舞台 - オオタスセリ
コラム●頭寒足熱の人 - 古館伊知郎

■人間・マルセ太郎
「死をも含めて人生」 - 数野博
マルセ太郎とのこと - 大塚善章
前の日のマルセさん - 中島淳
父・マルセ太郎 - 金竜介

■舞台のないマルセ太郎劇場
白と科の一致に秀でた人 - 木津川計
立体講談「桃川燕雄物語」
「中村秀十郎物語」 - マルセ太郎


A5判210ページ 付録DVD「マルセ太郎のお笑い芸」
定価2310円

お申し込み
お名前、ご住所、お電話番号、メールアドレス、冊数をご明記いただき下記まで
お申し込みください。

神戸芝居カーニバル実行委員会
ファックス 0797-77-4657
メール jun-ksc@fine.ocn.ne.jp

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